地域が抱える経済・環境・社会・生活上の様々な課題を解決するためには、
地域で暮らす様々なプレイヤーがつながり、対話や協働をし、
お互いの力を高められるような、地域コミュニティが必要となります。
今回は
「なぜ地域コミュニティが必要なのか?」
「地域コミュニティが地域住民にどのようなメリットをもたらすのか?」
について解説していきます。
目次
つながりが地域と住民にもたらすもの
SDGsの17番目のゴール「パートナーシップで目標を達成しよう」は
パートナーシップの力で残り16ゴールを達成しようと呼びかける内容であるように、
つながり・協働は地域課題解決の大きな力を生みます。
住民同士がつながり、豊かなコミュニティが生まれることは、
持続可能な地域の実現にとっても、地域で暮らす住民個人にとっても、
多くの効果があります。
地域コミュニティに関する研究は様々行われており、
人と人がつながること、地域に強いコミュニティが存在することによって、
次の5つの効果があるとされています。
- 幸せになれる
- 健康になれる
- 生産性・創造性を高める
- 思いやりが高まる
- 経済的利益を生む
以下より詳しく解説していきます!
つながりが、「幸福度を高める」
人と人とのつながりで幸福度が高まることが明らかになっています。
友人の数別に見た主観的幸福度に関する調査では、
「友人がひとりもいない人に比べて、
友人が20人以上いる人の場合は幸福度が倍以上ある」という結果が出ました。
また、仕事や趣味などの所属団体の数でも、同様の傾向があり、
その他にも、ボランティア活動、ホームパーティーなどの
社会参加の有無と幸福感のつながりを示す研究も多くあります。
さらに、「幸福は連鎖する、伝染する」というのが
幸福学の研究の世界では定説になっています。
イェール大学の医師であり社会学者であるニコラス・クリスタキスらは、1020人の対象者同士のつながりと各人の幸福度を分析し、他人との社会的ネットワークを通じて幸福が人から人への人がっていくことを実証する研究を行った。
彼らの研究では、直接つながっている人(一次の隔たりにある人)が幸福だと、本人も約15%幸福度がアップすることが明らかになっている。なお、幸福度は三次の隔たり(友人の友人の友人)まで連鎖する。
この研究では、幸福が連鎖する理由が2つ挙げられており、1つは「感情は伝染しやすく、友人の感情状態が自分の感情状態に影響を与えること」、もう1つは「友人がいること(つながりがあること)自体が人の幸福を増進するということ」である。
つながりが、「生命力を高める」
豊かなコミュニティのつながりが生命力を高めるということも明らかにされています。
趣味関係のグループへの参加と要支援・介護認定率の関係に関する調査では、
年数回以上参加している人の割合が高ければ高いほど、
その地域で介護の必要な人が減少する傾向が見られました。
すなわち、「コミュニティへの参加は健康の維持につながる」ということです。
逆につながりを失い孤独になると、精神的にも身体的にも悪影響を与えることも
明らかになっています。
ブリガム・ヤング大学の心理学教授ホルトランスタッドは、30万人の患者の分析の結果、「タバコ」「お酒の飲みすぎ」「運動不足」「太りすぎ」よりも、「つながりの不足」が、寿命に悪影響が大きいという結論を導き出している。孤独は喫煙よりも健康に悪い。
→『早期死亡リスクは2倍?「孤独」をあなどってはいけない』(LIFE INSIDERより)
人はつながることで、幸せを感じ、生きる力を満たす生き物なのです。
ハーバード大学の免疫学者であるリサ・バークマンによると、急性心筋梗塞の治療を受けた患者の6ケ月以内の死亡率はお見舞いに来てくれた友人数と大きな関係がある、とのこと。
お見舞いが0人の患者は約7割が6ヶ月以内に死亡するのに対し、お見舞いが2人以上の患者の死亡率は3割を切る。
心配してくれる家族や仲間の存在が人の生死に大きく影響を与えるのだ。
つながりが、「生産性・創造性を高める」
人と人とのつながりが強固になることで、
生産性や創造性が高くなることもすでに明らかになっています。
スタンフォード大学の心理学者シュワルツは、中学生が同じ問題を1人で解く場合と2人1組で解く場合と比較してチームの創造性を検証する実験を行った。
被験者は、5つの同じ歯の数の歯車が横一列に組み合わさった状態で置かているのをみて、「左端の歯車を時計回りに回すと、右端の歯車はどちらに回るか」という問いに8問回答する(歯車の数が質問ごとに異なる)。
被験者は誰もが、まず歯車を手で一つずつ動かしながら、どちらに動くかを考え、最後の5番目の歯車が動く向きを考える方法をやってみる。これを地道にやり続ければ、誰でも確実に解くことができる。ただし、途中である法則を発見する被験者が必ず出てくる。歯車の数が奇数の時は左端と右端が同方向に、偶数の時は逆方向に回転するという偶奇性の法則である。発見できた被験者はその後の問題をあっという間に回答できるようになる。この法則を発見できた比率は、1人で解いている被験者のわずか14%に対して、ペアで解いていた意見者は58%と4倍以上であった。
マサチューセッツ工科大学のペントランドは、
銀行のコールセンター間の生産性の違いの原因を分析したところ、
個人の能力やリーダーシップでは説明できず、
従業員同士の交流の時間と関係性(会話への参加レベル)の影響が大きい
ことを発見しました。
研究チームは経営層に、休憩時間を個別にバラバラにとるのではなく、
チーム全員一緒にとるように改善することを提案しました。
すると、導入したコールセンター全体で8%、
パフォーマンスの低いチームにはなんと20%の生産性向上の効果が見られました。
つながりが人の創造性・生産性を高める理由が以下の2つ考えられます。
1つ目は、生物が持つ学修本能によるものです。
動物は他の個体の成功した行動を真似することで
繁殖行為、生息地選択の精度を高め、
種の生存確率を高める本能を備えています。
そのため人も他者の成功や失敗から学び、
より良い選択ができるようになると考えられています。
2つ目は、考え、行動、視点同士の摩擦・刺激から
新しいアイデアが生まれる視点結合効果によるものです。
つながりが、「利他性を高める」
人は誰しも利己的(テイク)な人格(自分が勝ちたい、目立ちたい)と
利他的(ギブ)な人格(誰かの役に立ちたい、社会に貢献したい)の
2つを持ち合わせています。
しかし、チームで行動すると、人は利他的な人格が強まる傾向が見られます。
組織心理学者アダム・グラントは4人組でお金を足り取りする実験を通じて、他者に与える「ギブ行為」はネットワーク全体に素早く広がっていくと説明している。
この実験では、最初から自分の利益を損なう可能性があっても、チーム利益を最大化しようとする人が参加者の15%程度存在し、その人の存在により周囲にもギブを選択する人が徐々に増えていくことがわかった。
つまり、利他的な精神が伝染していくというのだ。
地域社会にも一貫して利他的な人格の人が一定数います。
その人の存在と周囲とのつながりを通じて、
地域社会全体にギブ的人格の人が増えることで、
支え支えられる関係が地域内に広がれば、
住民一人ひとりの生活防御力を高めることになります。
つながりが、「経済的利益を生む」
つながりが地域内経済循環を促し、地域に経済的利益を生むこともあります。
イギリスのシンクタンクが提唱する「漏れバケツ理論」というものがあります。
地域が観光などで地域外のお金を稼いでも、外で消費してしまうと、
穴の空いたバケツに懸命に水を注いでいるようなもので、
地域経済は成長しないという考え方です。
つながりを深め、顔の見える消費を増やすことが、
経済縮小の負のループを止め、
地域外への経済の漏れを少しでも防ぐことにつながるのです。
さらに、コミュニティの質と貨幣の支出(消費額)は反比例関係にあります。
- 子どもの習い事の送迎
- おばあちゃんの見守り
- 自宅の防犯対策
- 年に1回程度使用する大雪用のスコップ
- 家庭菜園用の農機具・・・
良質なコミュニティの地域での暮らしには、
誰かが手助けしてくれ、足りないものは貸してもらえる
昔ながらの「シェアリング・エコノミー」が機能しており、
外部サービスへの依存と支出が減るのです。
コミュニティの力で地域課題を解決しよう!
まちづくり、防災、子育て、高齢者支援、祭り・伝統芸能の維持など、
複雑な地域課題についても、
住民同士の知を掛け合わせて、コミュニティというチームの力を活かせれば、
多くのものを解決できる可能性があります。
コミュニティの力で担い手不足を補う
人口減少、高齢化が進む地域では、
あらゆる領域で担い手不足が深刻化しつつあります。
介護人材は2025年には30万人以上不足すると予測されています。
さらに、日本中で祭りや伝統芸能の担い手が不足し、存続の危機に瀕しています。
日本中ほぼ全ての地域で人口は急激に減少しつつあり、
都市圏から移住者を確保できても、
全体のパイがこれだけ小さくなる中では人の奪い合いには限界があり、
決して持続可能ではありません。
この担い手不足の問題を解決してくれるのがコミュニティなのです。
地域の生活防衛力を高める
人生100年時代というのは、
個人が自立した生活の危機を迎えるリスクが高い時代でもあります。
- 大災害に遭遇する
- 事故で障害を負う
- 親の介護に追われる
- ガン・認知症を患うなど
いつ何時、自分一人での自立した生活を送れなくなるかわかりません。
しかも、そんな時に足元を支えてくれる機能を果たしていた
会社や家族、国や自治体という従来型の支援基盤はどんどん揺らいでいます。
リスクが高まり、基盤が揺らいでいる。
そんな時代に、
住民それぞれの生活上の困難なこと(精神的、身体的、障害)を補い合い、
支え支えられることを可能にするのが、地域のつながり(コミュニティ)なのです。
関係の質が成果の質を高める
D・キムが提唱した
チーム内の人間関係の質が、チームの成果の質につながることを表現した
「成功の循環モデル」というものがあります。
「成果の質」とは、企業では売上げ・利益、地域では経済規模・人口・幸福度などである。
結果の質を高める一般的なアプローチが「行動の質」を高めることだ。
営業や商品開発の強化、移住促進や福祉の充実などが該当するが、人や組織の行動はすぐには変わらない。行動の質を変えるためには、考え方・意欲などの「思考の質」を、思考の質を変えるには、組織内の個人同士の「関係の質」を変える必要があると説いている。
- 住民同士の「関係の質」が高まると、人は生きがいと幸せを感じ、生命力が高まる。
多くの知識が共有され、多様な気づきを得る。 - その結果、仕事や家事、地域活動に取り組む考え方が変わり、
「思考の質」が変わる。 - 「思考の質」の変化により、「行動の質」が変わり、
より生産的、創造的な活動ができ、地域や他人のためになる行動も増える。 - 「行動の質」が変われば、
住民の経済的な利益、仕事のやりがい、豊かな生活などの「成果の質」につながる。 - 良好な関係の元で、良い結果が出れば、自然と「関係の質」は高まる。
この成功のサイクルが回ることが、つながり作りの最大の効能なのです。
持続可能な地域をつくるコミュニティの力!
地域を再生し、持続可能な地域を実現するためには、
多様な人を受け入れ、人と人をつなぎ、協働を促し、互いに高め合う
地域コミュニティの再生が必須です。
異なる価値観、ライフスタイル、人生観の元で生きる多様な人が
「持続可能な地域」という同じ方向に歩むために、
地域が抱える経済・環境・社会・生活上の様々な課題を解決するために、
地域で暮らす様々なプレイヤーがつながり、
対話し、協働し、お互いの力を高められるような、
一つの強いチーム、コミュニティとなる必要があるのです。
あなたは、自分が住んでいるまちで本当に「やりたいこと」をできていますか?
↓↓↓やりたいことを実現させる具体的な方法は以下↓↓↓
『実践 地方創生×SDGs 持続可能な地域のつくり方-未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン-』
(英治出版|筧裕介著)
衰退した地域を再生したり、持続可能な地域を実現するためには、
地域コミュニティの存在は欠かせません!